行動で後悔しないための知恵「オッカムの剃刀」。




古代には現代社会に通用する有益な知恵がいくつも存在している。

実際、ソクラテスやプラトン、アリストテレスやヘラクレイトスといった哲学者たちの知恵は現代まで受け継がれ、現代ではよく本の中や映画のセリフなどで引用されることもある。

ビスマルクが述べた「愚者は経験に学び、賢者は歴史から学ぶ」といった言葉も、端的にいえば他人の経験を自分に生かせといった意味であり、古代の偉人たちが残した知恵を無駄にするな、というように解釈することもできる。

 

もちろん、古代の知恵のすべてが正しいわけではなく、デカルトの二元論などのように現代では科学的に否定されている概念も多い。しかしそれは古代の知恵が間違いだらけで意味がないというわけではない。

基本的に人間の脳は過去5万年前から何ら変わっていなく、人間性の本質的な部分は古代の人たちと同じである。だからこそ、古代の知恵の多くが現代の私たちにも通用するのだ。社会や文化は古代と比べて明らかに発展してきたが、そこで生きる人間という生き物は本質的にはまったく同じなのである。

 

ここでは14世紀の哲学者であるオッカムの知恵を拝借し、現代社会に生きる私たちに役立つ「オッカムの剃刀」という概念について解説していく。



オッカムの剃刀とは?

おそらく、普通に人生を生きてきて「オッカムの剃刀」という言葉を聞いたことがある人は少ないだろう。

オッカムの剃刀の意味はザックリと以下のとおりだ。

オッカムの剃刀とは、「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきでない」とする指針。もともとスコラ哲学にあり、14世紀の哲学者・神学者のオッカムが多用したことで有名になった。

出典:オッカムの剃刀 – Wikipedia

 

このオッカムの剃刀を日常生活を例にして考えると、次のように言い換えることができる。

「何か行動を起こすときに、一つ以上の理由が思いつく場合は行動を起こすべきではない」

私たちは毎日たくさんの選択をしながら生きている。

朝起きるときも「仕事へ行く」という明確な理由があるからこそ、きちんと毎朝起きて会社へと向かっていく。仕事をするときも「お金を稼ぐ」という理由があるからこそ、きちんと会社で仕事をしてお金を稼いでいる。

そうした私たちがとる日常的な行動の一つひとつには、必ず何かしらの理由があるのである。だからこそ、私たちは家でゴロゴロしたり、ベッドで一日中寝たくても、自分の体をうまく操りながら行動を起こせるのだ。

 

しかし、明確な理由があるからこそ行動しているのにも関わらず、なぜか行動をした後に後悔してしまう人が多いのも事実である。

本来、自分の行動や選択は理由があってするものであり、「したい理由」があって行動するのだから後悔することはないはずだが、なぜだか大多数の人が自分の行動に後悔してしまうことが多い。だが、これはオッカムの剃刀で説明することができる。

 

オッカムの剃刀とアドラー心理学

さきほども述べたように、私たちが毎日何かしらの行動を起こすときには、その背景には明確な理由があるものだ。

これはアドラー心理学でもよく言われていることであり、アドラー心理学では、「人の行動の裏には必ず何かしらの目的が存在する」ことを「目的論」という概念で説明している。ちなみに、心理学の巨頭であるフロイトは、目的論とは逆の「原因論」を唱えており、原因論は「人の行動にはすべて何かしらの原因がある」という考えになる。

 

現代ではアドラーの目的論のほうが、人間の行動をしっかり説明できるとして主流になっているが、だからといってフロイトの原因論が間違っているとも言いがたい。心理学は基本的に不確実なものであり、絶対的な正解は存在しないのだ。

お分かりのとおり、ここで解説するオッカムの剃刀はアドラー心理学の目的論に通じる考え方であり、自分が意識しているか無意識かに関わらず、私たちの行動の裏には必ずなにかしらの目的が潜んでいるものであり、普段の行動はそうした目的によってコントロールされていると考える。

 

しかし、さきほど述べたように、多くの人たちは自分の目的に沿って行動しているにも関わらず、行動に対して後悔をしてしまうことが多い。そうした行動の後悔を回避する知恵の一つが、オッカムの剃刀である。



オッカムの剃刀を例で考える

オッカムの剃刀では、「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきでない」という指針を持って行動すべきだと述べているが、私たちが後悔する行動や選択をしてしまうときには、ほぼ確実にこの指針から外れた選択をしてしまっている。

 

たとえば、ダイエットを例に考えてみよう。

ダイエットを始めるときには、ほぼ全員が「痩せたい」という目的を持ってダイエットを始めるだろう。これはダイエットという言葉の定義から考えても明白なことである。

しかし、みなさんもご存知のとおり、ダイエットに成功する人はダイエットに挑戦する人の半数にも満たず、8~9割の人は途中で挫折してダイエットに失敗してしまう。誰もが「痩せたい!」という明確な目的を持って行動を起こしたのにも関わらずである。

 

では、なぜ「痩せたい」という目的を持ってダイエットを始めたにも関わらず、多くの人が挫折したり途中で投げ出してしまうのだろうか。

無論、それはオッカムの剃刀に反しているからである。つまり、自分の中でダイエットをする目的が「痩せたい」という目的以外にも複数存在しているのだ

 

簡単に言うと、自分では「痩せたい」という目的で行動していると思っていても、心の奥底ではほかにも、「異性からモテたい」「スタイルが良くなりたい」「周りから褒められたい」といった複数の目的が存在しているのだ。

これは行動の指針であるオッカムの剃刀に反している。必要以上に多くの目的を持ってしまうと、本当に集中すべきところにエネルギーを注ぐことができず、結果として意思の力が弱まってしまうのだ。

 

目的が自己正当化に変わる

さきほどはダイエットを例に出してオッカムの剃刀について説明してきた。ダイエットでは「痩せたい!」という理由以外に複数の目的を持ってしまうと、同じ数だけ投げ出す目的を持つことにもつながり、最終的には自己正当化や自己欺瞞の罠にハマってしまう。

ダイエットをしていれば、いつか必ずうまくいかないときがくるだろう。体重が思うように減らなかったり、食事制限にストレスを感じたり、運動をするのがめんどくさくなったりなど。

 

ダイエットの方法は食事制限なり運動なりで人それぞれ異なっているが、ダイエットを開始して一度も悩まずに減量に成功した人というのはほとんどいないだろう。

そうした困難な場面に出くわしたときに、複数の目的を持って行動をしている場合は、同じだけの複数の目的が、目の前のつらい現実から逃げるための理由にもなってしまうのだ。

 

つまり、オッカムの剃刀に反していくつもの目的を持ってしまうと、

  • 痩せたい⇒まだ痩せなくても大丈夫
  • 異性からモテたい⇒モテなくても恋人はできる
  • スタイルが良くなりたい⇒誰もそこまで気にしてない
  • 周りから褒められたい⇒別に褒められなくてもいい

というような、自己正当化と自己欺瞞が起こってしまうのだ。

そのため、オッカムの剃刀では必要以上の目的を持って行動を起こしてはいけない、と戒めているのである。

 

目的は複数持ってはいけない

はじめのほうで述べた、「何か行動を起こすときに、一つ以上の理由が思いつく場合は行動を起こすべきではない」という言葉は、私なりにオッカムの剃刀を日常生活を例にして言い換えた言葉である。

さきほどは、これをさらに「ダイエットが失敗する理由」を例に、自分では「痩せたい」という明確な目的を持っていると思っているが、実際には「異性からモテたい」「スタイルが良くなりたい」「周りから褒められたい」といった複数の目的を持っていることにより、同じ数だけダイエットが失敗する理由をつくり出してしまうことにより失敗してしまう、と説明した。

 

これが冒頭で述べた、多くの人が自分の行動と選択の後に後悔してしまう原因である。

オッカムの剃刀に反して複数の目的を持っていると、自分を正当化するためや納得させるために、複数の目的の一つひとつに対して「諦めるための理由」をつくり出し、自分がとる行動は間違っていないと言い聞かせることに精を出してしまう。もちろん無意識的にだ。

そして、そうした諦めるための理由に耳を傾けてしまったが最後、「どうして続けなかったんだろう」と後悔してしまうのである。

 

大事なのは行動の核となる明確な目的を一つだけ持つことであり、行動に対していくつも理由を並べ立てることではない。もし、行動するときに「行動するための理由」を探してしまうのであれば、あなたはその行動を起こすべきではない。

いくつもの理由を探すということは、自分を正当化し、自分は間違っていないのだと言い聞かせたいだけである。そうした行動のほとんどは、後悔する行動へとつながっていく。自己正当化は行動の良し悪しを見誤らせるのだ。

 

仕事での決断、転職の理由、旅行へ行く目的、恋人が好きな理由、ダイエットの目的、新作のスタバを飲む理由。

何か行動を起こすときは、しっかりと明確な理由が自分の中に一つだけあるかどうかを確認するようにしよう。

 

【まとめ】オッカムの剃刀で行動を剃る

私たちが日常生活の中で経験する「後悔」というものは、結局のところ私たち自身が自分でつくりあげているものに過ぎない。その正体は自己正当化と自己欺瞞であり、すべての後悔は自分を欺くことからはじまるのだ。

行動の後の後悔を減らしたり、目的や選択を間違えないためには一体どうすればいいのか。それは、ここで述べてきた14世紀の哲学者であるオッカムの知恵をほんの少し拝借すればいい。

 

「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきでない」=「何か行動を起こすときに、一つ以上の理由が思いつく場合は行動を起こすべきではない」

オッカムの剃刀を指針にして日常生活の行動を決定することができれば、行動の後に後悔することや、物事の途中で挫折してしまうことも減らせるだろう。

 

おしまい。








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