プロスペクト理論を恋愛の例でわかりやすく解説。




恋愛は仕事と同じく人生においてかけがえのないものである。仕事をしてお金をたくさん稼いでいても、心の底から愛してくれる人や自分のことを必要としてくれる人がいなければどこか物足りない。

逆に恋愛だけに精を出し、お金や仕事といった部分にこだわりを持っていない人も、恋愛をすることで性欲や承認欲求などが満たされた後で、やはり物足りなさを感じてしまうだろう。

 

人生は短いとよく言われるが、ストア派の哲学者であったセネカが言うように、「人は自ら人生を短くしているだけに過ぎず、時間を自分のために有効に使うことができれば人生はそれなりに長くすることができる」。そして、長い人生を生きる上で不可欠なのが恋愛と仕事である。

ここでは人生においてかけがえのない恋愛を例に出し、「恋愛がなぜ多くの人につらいものなのか」「なぜ人は恋愛の痛みを引きずってしまうのか」といった疑問に対し、心理学的側面から「プロスペクト理論」を用いてわかりやすく解説していく。



プロスペクト理論とはなにか?

まずはじめに「プロスペクト理論とはなにか?」についてだが、プロスペクト理論とは行動経済学者であるダニエル・カーネマンが著書「ファスト&フロー」で提唱した意思決定モデルの一つであり、ざっくりと簡単に要約すると「人間には利益よりも損失のほうが強く感じる心理がある」という理論だ。

 

たとえば、お金持ちの友人からいきなり世界中にいくつもの豪邸を貰いうけ、ロールスロイスやポルシェやフェラーリといった高級車を数台プレゼントされ、モデルと女優の愛人を数人囲い込み、口座に10億円振り込まれたとしよう。

今までいたって平凡な生活を送っていたあなたは、突如世の中の成功者として名を挙げ、ワンピースのゴール・D・ロジャーのようにこの世のすべてを手にし、なんでも好きなことができる自由と時間を手に入れ、歓喜と喜びと幸せに満ち溢れるだろう。

 

ところが、それがすべて夢だったとわかり、手にしたものすべてを失ってしまったとすれば、すべてを手にする前と同じ状態に戻っただけだとしても、以前よりもみじめで不幸で絶望感に駆られてしまう。

欲しいものを手に入れたときの喜びよりも、失ったときの悲しみのほうが倍近く強く感じる。これがプロスペクト理論の骨子である。

 

人間に潜む損失回避性

プロスペクト理論を説明するときに避けては通れないのが、「損失回避性」という概念である。損失回避性とは、「不確実で大きな利益よりも 、安定した目先の利益を好む」心理的傾向のことを指す。

たとえば、友人からコインの表と裏を選ぶゲームに誘われたとする。コインの表と裏が出る確率は互いに50%だ。友人はあなたに「表が出れば100万円、裏が出れば0円、ゲームに参加しなければ20万円あげよう」と告げる。さて、あなたはどの選択肢を選ぶだろうか?

 

このゲームでは、大多数の人たちがゲームに参加せずに絶対確実に20万円をもらえる選択肢を選ぶ傾向がある。しかし、このゲームでは実はゲームに参加したときのほうが期待値が高いため、絶対確実に20万円もらうよりも、ゲームに参加して50%の確率で100万円を狙うほうが得なのである。

不確実で大きな利益よりも、安定した目先の利益。これが損失回避性という概念だ。

 

プロスペクト理論と損失回避性が働く瞬間

プロスペクト理論と損失回避性は、コインの表と裏のように切っても切れない関係だ。損失のほうが利益よりも倍近く強く感じる心理的側面があることにより、たとえ不確実でも、期待値から合理的に判断すれば大きな利益を狙うのが正解だとしても、人は安定した絶対確実に手にできる目先の利益を求めてしまう。

プロスペクト理論が損失回避性という人間の心理傾向を支え、損失回避性がプロスペクト理論の背骨となっているのだ。

 

人は誰しも、自分が選ぶ選択から損をしたくないと思っているだろう。損をするぐらいなら多少利益が少なくなるとしても、絶対確実な選択肢を選んでしまう。それは、人はプロスペクト理論やら損失回避性といった概念について知らなくても、直感的に嬉しい出来事よりも嫌な出来事のほうが心に残ることを理解しているからである。

人間はとにかく「今すぐ」「安定」した「確実」な利益を求める。一か八か挑戦して人生を大きく変えることにチャレンジするよりも、比較的平凡で安定した生活を送ることができればそれで満足なのである。だからこそ、現代人は失敗を恥ずかしがり、新しいことに挑戦するのを躊躇いがちになり、行動せずにお金持ちなる方法ばかり探してしまうのだ。

 

行動するには時間と労力がかかり、費やした時間と労力が報われるかどうかがハッキリしない場合、人間にはプロスペクト理論と損失回避性が働き、行動せずに現状維持を選択することになる。これは勉強やダイエット、筋トレや英語学習、起業や転職に踏み出せない心理を説明してくれる。

人はどこまでも安定と確実性を求める生き物なのである。



プロスペクト理論を恋愛を例に考える

さて、プロスペクト理論と損失回避性について理解した上で、本記事の本題である「恋愛」について考えてみよう。

はじめにも述べたように、恋愛は人生においてとても大事なものだ。好きな人がいるだけで辛い環境にも耐えることができたり、嫌な上司ともうまく折り合いをつけながら仕事をすることができる。しかし、恋愛は人生において大事なものであっても、時に恋愛が人生に牙を向くこともある。その一つが失恋である。

 

失恋はその字のとおり、「失った恋」を指す。つまり、恋人と別れたり好きな人への感情を失ってしまう状態のことである。失恋の辛さは、昔からの幼馴染みと自然と付き合い、結婚までたどり着く人でもない限り、誰しも人生で一度は経験したことがあるだろう。

人はよく自分にとって大事なものを失ったときに「失恋したような気持ち」と表現することがあるが、日常的な出来事を失恋に例えたところで失恋のつらさを表すことはできない。恋愛での失恋の痛みは何よりも苦しいのだ。

 

さらに、失恋が原因で何年も恋愛から遠ざかったり、異性への信用を丸っきり失ってしまったり、恋愛自体がトラウマになってしまうことも珍しくない。

しかし、なぜ失恋はそこまで多くの人の心に大きな傷跡を残すのだろうか。なぜ恋愛での傷跡はいつまで経っても癒えることがないのか。この疑問を解決してくれるのが先述したプロスペクト理論である。

 

恋愛は利益よりも損失のほうが強い

プロスペクト理論の骨子は、「人は利益よりも損失のほうが倍近く強く感じる」というものである。楽しいことが二つあったとしても、その後に嫌な出来事が一つあれば気分は最悪になってしまう。2-1が-1になってしまうのだ。

10万円を手にしたときの喜びよりも、10万円を失うときの痛みのほうが強く感じる。これがプロスペクト理論が述べている人間心理である。ここで恋愛を例に出して考えていくのは、恋愛には利益よりも損失のほうが多く、プロスペクト理論をよりわかりやすく理解できるからだ。

 

恋愛には楽しいことや嬉しいこと、幸せなことがたくさんあるが、反対に嫌なことや苦しいこと、悲しいことや辛いことも同じぐらいたくさんある。誰かと付き合っていれば相手に心配をかけたり嫌な思いをさせないように気を配らなければならないし、ちょっと連絡が途絶えたり予定をキャンセルされたりすれば、浮気や気持ちが冷めたのではないかと不安になったりもするだろう。

巷では、恋愛の素晴らしさをとうとうと語っているコラムニストやブロガーなどがバッタの大群のように大量発生しているが、恋愛には楽しいことと苦しいことが同じぐらいあると仮定すれば、プロスペクト理論の観点から考えると、恋愛というのは基本的につらくて苦しいものであることがわかる。

 

彼氏からプレゼントを貰っても、その後に別の女の人とLINEしているのを目にすれば、さきほどの嬉しい気持ちは一瞬にして吹き飛び、彼氏に対して嫉妬とほんの少しの怒りの感情が湧いてくるだろう。恋愛は楽しいことと嫌なことが同じぐらいあるからこそ、恋愛はつらくて苦しいものであり、いつまでも心に傷跡を残すことが多いのだ。

 

心の傷跡は簡単には消えない

人間はなにか外傷を負ったとしても、時間が経てば自己治癒力によって傷を治してくれる。机に足をぶつけてすりむいたときや、石につまずいて転んで肌に傷を負ったとしても、数日経てば綺麗さっぱりなにもなかったかのように回復するだろう。

しかし、心の傷はそうした外傷とは別次元のものであり、一度心に大きな傷を負ってしまえば、それがいつまでも心に残りトラウマになってしまうことがある。

 

恋愛をしている人が、つらく苦しい思いをしていることが多いのは、恋愛での心の痛みはそう簡単には消えないからである。プロスペクト理論から考えると、恋愛での損失(傷跡)は利益(幸せ)よりも心により鮮明に刻まれるため、多くの人が願っているような「幸せな恋愛」から遠ざかってしまうのである。

そして、恋愛から受ける傷跡が大きければ大きいほど、恋愛に対してトラウマを抱えてしまい、恋愛自体をつらく苦しいものだと思い込んでしまう。

 

ずっと心に残る傷跡は、心理学的にPTSD(心的外傷後ストレス障害)と言われており、昔は戦争から帰還した兵士たちが、戦争が終わった後も目の前で人が殺される悪夢に悩まされることに対してつけられたものである。

現代では目の前で人が殺されるような戦争は起こっていないが、現代人が恋愛から受ける心の傷跡は、ある意味戦争から帰還した兵士さながらのダメージを心に負っているといえる。現代人にとって恋愛は戦争なのである。

 

損失をできる限り回避する

人間の心理が利益よりも損失のほうが強く感じるのだとすれば、恋愛でできるだけ傷ついたり、苦しんだり、つらい思いをしないためには、なるべく損失を回避することが大事である。

一般的な恋愛での損失とは、恋人とのケンカや言い争い、嫉妬や憎しみ、怒りや裏切り、浮気や別れといったものである。そうした損失は恋愛での利益である、楽しいデートやサプライズプレゼント、ハグから伝わる安心感や気持のいいセックスよりも心に残ってしまう。

 

たまに、友人に対して恋人の愚痴や文句をマシンガンのように話す人がいるが、恋人へのストレスを発散した後には、ほとんどの人が最後には「でもやっぱり好きなんだよね」とつぶやく。

こうした人は、付き合っていて損失のほうが圧倒的に多いのにも関わらず、数少ない利益にだけ目を向けているため、いつまで経っても幸せになることはできない。何度も言うように、人は利益よりも損失のほうが強く感じ、ネガティブなことのほうが長い間心に残るものだからだ。

 

人生では恋愛を含め、できるだけ損失を回避することが大切だ。しかし、人生のあらゆる物事がそうであるように、単純なことこそもっとも難しいのである。

誰だって自分から損失を被ろうとはしないだろう。でも現実では、損失を多く感じる行動を無意識的にとってしまう。だからこそ、恋愛で傷つく人が絶えず、本当は幸せを感じさせてくれるはずの恋愛で、つらく苦しい思いをしている男女が多いのである。

 

【まとめ】プロスペクト理論は生きづらさ和らげる

プロスペクト理論と損失回避性は、人間の心理傾向を説明するのにもってこいのモデルであり、仕事や恋愛、日常生活のさまざまな出来事から感じる精神的な負担について説明してくれるものだ。

特に恋愛は現代人にとって生きがいとなっていることが多く、恋愛がうまくいくかどうかによって、人生の充実度まで左右されるといっても過言ではない。生まれてから一度も恋愛をしたことがない人が、人生に絶望して連続殺人犯や通り魔となって他人を殺すのも、現代では悲しいことに珍らしいものではなくなっている。

 

しかしその一方で、恋愛で負った心の傷がずっと消えずに、深く心に刻まれている人も少なくない。一般的に言われている「恋愛をすれば毎日がお花畑になる」というのは幻想であり、恋愛ドラマや映画の世界の中だけの話である。

現実の世界での恋愛は、つらく苦しく、思い通りにいかずに傷つくことばかりなのが事実だ。そして、恋愛での傷跡がほかの出来事よりも一層深く心に残るのは、ここでプロスペクト理論を例に解説してきたとおりだ。

 

人生において恋愛は大事だが、恋愛だけが人生なわけではない。仕事が人生にとって大事であっても、人生は仕事で成り立っているわけではないのと一緒だ。プロスペクト理論と損失回避性の概念について理解することは、人生や恋愛、仕事や人間関係の生きづらさからの解放をもたらしてくれるだろう。

 

■参考書籍

おしまい。








コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です